医師の転職回数は多いと不利か?
目次
医師の転職回数は多くても不利ではない。
私は、平成元年に地方の国立大学医学部を卒業した女医です。
かれこれ30年あまり大学病院から中小病院、個人開業クリニックや保健所、美容関係等の自由診療施設での常勤・非常勤・スポット勤務歴があります。
転職回数は、他の医師より多いと思いますが、不利を感じた事はありません。
もし転職の相談を受けた場合は「我慢しないで転職すべき」と答えます。
その理由を自分自身や、実際に一緒に勤務してきた医師たちの転職体験から考察します。
医師が転職を考える時
「医師」という仕事は、小学生の将来なりたい職業ランキング上位にあります。
日本国内で医師として働きたい場合の最短コースは、医学部に入学後、留年せず卒業・医師国家試験合の6年ですが、私立・国公立とも医学部入学は超難関です。
最近は東欧や中国の医学部を卒業後、帰国して国家試験を受け日本の医師免許を取得するパターンもあります。
アメリカ合衆国では、医学部に入学するために、まず4年制の大学を卒業する必要があります。高校時代から、大多数の生徒はバイトを通して社会のしくみを知り、大学学費は奨学金や自分で働いて支払う学生がほとんどです。
日本の医師はまじめに勉強して医学部に合格、そのまま卒業して臨床研修医を経て各科専門医資格を取得するのが通常のパターンです。
欧米の学生のように大学卒業後、就職前にバックパッカー等で世界を見て回る人はほとんどいないのでは、と思います。
医師になれた嬉しさで、何とか厳しい研修医生活を過ごし、懸命に専門医資格や医学博士号を取得。結婚・子供の教育・親の介護…ふと気が付くと人生の折り返し地点を過ぎていた、とういのは現在の私自身です。
シングルマザーである私の今までの転職は、ほとんどが子供の成長にあわせてでした。学校近くの職場に移って放課後学習塾への送迎、オンコールや時間外勤務・当直の無い勤務で、自宅で子供と過ごす時間を出来るだけ増やしたい、という思いで転職してきました。
管理職の立場で、転職回数の多い医師を採用する時
ある離島にある49床の病院で、副院長を経験しました。
全国展開の病院グループで、毎朝の管理職ミーティングから始まり、毎月運営会議で、院長は離島から飛行機移動で会議に参加します。この院長は、大病院の院長歴が長く、その関連病院であるこの病院開設時に自分と一緒に異動してきました。
本当に経験豊富な人格者、今でも私の人生のメンター(恩師・良き指導者)で、多くのことを学ぶことが出来ました。
その病院で、新たな就職希望医師の履歴書を、院長と一緒に見た事があります。
院長は「病院スタッフは家族と同じ、病院長は父親。家族間で小さないざこざは起きるけど、すぐに仲直り出来る。」とおっしゃられました。
「小さな組織ほど、新たなメンバーを採用する時は慎重に。病院の雰囲気が壊れると困るから…」と、この医師の履歴書から勤務歴のある施設のお知り合いに「○○先生が当院に就職希望なのだけど、勤務態度はどんな感じだった?」とこっそり問い合わせていました。
転職回数より、過去の勤務態度やどういう理由で転職希望となったのか?を重視されたようです。
また、この病院には離島に憧れて一家で転居された医師が就職されましたが、実際に生活されてみて、お子様の教育環境に不安を感じ、残念ながら離職となりました。
とても優しくて優秀な医師で、管理職の立場からすると、とても残念でした。
転職回数の多さを不利と感じるか、有利と判断するかは本人次第
どの職種でも人間関係や職場環境は、実際に勤務してみないとわかりません。
良好だった環境が、少しのことで耐えがたい場所になってしまった経験は、誰にもあるのではないでしょうか?
ましてや「人の命をお預かりする」医師という職業は、何科でも、怖い経験や怒り、どうしようもない虚無感に襲われてしまう事が多々あると思います。
「全力を尽くしたつもりだが達成出来なかった」「自分以外のもっと優秀な医師だったら違った結果になったかも」「あの時、別の選択をしていたらもっと良い結果が得られたのでは」…等々、大きな医療事故から大事には至らなかった小さなミスまで、日々遭遇してしまうのが医師の仕事です。
その時、それらの負の感情からどのようにしてリカバーするのか、それは自身のメンタルと周囲のサポート力・信頼関係だと私は思っています。
何か、緊急事態が起きてしまった場合、頼える上司や同僚、コメディカル・事務スタッフがいる職場なら、何か些細な不満があっても勤務を継続すべきです。
「○○病院(クリニック)の○○医師」と評判になれば、日々の勤務が辛いと感じることがあっても「やりがい」が後押ししてくれます。
逆に「自分では、頑張っているつもりだけど、上司や他のスタッフから評価されない、それぞれが自分の職務で多忙・他のスタッフに関してヘルプの手を差し出す余裕なし」の雰囲気漂う職場なら、転職を考えても問題なしです。
退職時、仲良しだったスタッフからの「辞めないで依頼」は心苦しいし「何か自分の話題が話されているだろう」はメンタルがくじけそうになります。
そういう時は、この転職は自分の将来にとって「有利・有利・有利…」とマントラのように唱えて乗り越えます。また、転職時いつも自分が気をつけているのは「飛ぶ鳥後を汚さず」です。
去っていく職場へ不平不満は決して残さず「ありがとうございました、また何かの機会によろしくお願いします」と、友好平和の円満な人間関係のまま、労働関係を解消するのが、今後の医師人生において大きなプラスになると思います。
「前(生き甲斐)を見据えて」今後も医師の転職回数は増えて良いと思う
Ikigaiベン図を見た事がありますか?
4つの円が交わっていて、それぞれの場所にキーワードが8個、
What you love (好きなこと)What you are good at(得意なこと) What you can be paid for (収入を得ること)What the world needs(社会が必要なこと) Passion (情熱)Mission(使命) Profession(専門職) Vocation(天職)→それぞれの円が交わった中央にIkigai(生き甲斐)があります。
医学部卒後間もない研修医先生方は、まだ好きなこと・得意なこと(進むべき専門科)は手探りの状態で決めかねると思います。
ただ、人生経験30年足らずで、高校時代から勉学に励み続けて、残りの人生、レールのひかれた道を日々進むのかな、と感じた場合、少し息抜きして他の経験をするのは、長い目で見ると決して遠回りならないと思います。
また、各科専門医資格を取得しなくても、その途中に、ご自身で好きな職場を見つけたら、その技術を磨くのもあり。
続きはいつでも再開できます。
自分なりに納得がいかない職場は転職して、色々な体制を体験、色々な人々と接するべき。例えば医師とは関係のないMBAを勉強して資格を得る、全く自分の専門からかけ離れた科を勉強しなおす、何でもありです。
転職は、辞めるも就職するも相当なエネルギーと貴重な時間を消費します。
また、「旧知の友との別れ」と「新たな環境への挑戦」がついてまわる、自分自身のメンタルが鍛えられる修練の場です。
転職は、いわば自分への勲章、絶えず前を見据えて自分の生き甲斐を探すメソッドの一つととらえるなら、医師の転職回数が多いのは決して不利にはならないと思います。
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